ロボット介護機器関連事業の成果と今後の見通し

 昨今、少子高齢化社会の影響から、介護産業における介護人材の不足が懸念され始めてから長らく経ちます。また、近年では介護の在り方についても見直しがされ、高齢者や被介護者ご本人の身の回りのお世話をするだけではなく、ご本人の長期的な自立を支援し、自分でできることを一つでも多く・長くできるようにすることや、ご本人の希望や尊厳を大切にする介護へとシフトしてきています。同時に、介護者やご家族による介護を支援し、介護者と被介護者の双方が心身共に幸せな状態でいられるWell-beingも重要視され始めています。

図表1に示すように、ロボット介護機器を活用することで、介護者における介護支援、被介護者における自立支援を実現することができ、最終的には身体、精神的に良好な状態のみならず社会参加への意欲向上にもつなげることができます。(ロボット介護機器の種類については、「重点分野」をご参照ください。)

図表1 ロボット機器活用の目指すべき姿

出所:PwCコンサルティング合同会社「ロボット介護機器事業の成果・課題及び介護・福祉機器事業の展開に関する調査 報告書(令和2年度実施)」委託元:国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ※一部改変

ロボット介護機器事業の目的は?

 ロボット介護機器事業は、平成25年度に経済産業省にて開始されました。その目的は、「ロボット技術の介護利用における重点分野」のロボット介護機器の開発・導入の支援を実施し、被介護者の自立支援や介護者の負担軽減を実現することを通じて、ロボット介護機器の新たな市場の創出をめざすことです。その背景には、介護者の負担軽減の観点から、介護現場においてロボット 技術の活用が強く期待されている一方で、ロボット介護機器の分野は以下3点の課題があるために、開発・製品化が進まないことがあります。

• 市場性が見えない
• 開発に特別の配慮が必要
• ユーザの声が開発者に届きにくい

そこで、これらの課題を解決するため、経済産業省は以下3点をコンセプトとして本事業を開始しました。

① 現場のニーズを踏まえて重点分野(次頁参照)を特定 (ニーズ指向)
② ステージゲート方式[1]で使い易さ向上とコスト低減を加速 (安価に)
③ 現場に導入するための公的支援・制度面の手当て (大量に) [2]

事業によりニーズを踏まえた機器の開発と導入を実現することで、テクノロジーの利活用により深刻化し続ける介護現場の課題を解決し、介護・福祉の目指すべき姿を達成することが本事業の前提と言えます。ロボット介護機器の産業の立ち上げを加速させるためには、図表2に示すように、現在の課題と今後の取組むべきスコープを設定することが肝要と考えられます。そのためには、ロボット介護機器が取組むべきスコープの一つ一つを本事業を通じて実現していくことが期待されています。ロボット介護機器産業の発展のためには、開発事業者に対して安全や効果の考え方の普及啓発を行うことで、介護現場のニーズとすり合わせた機器開発・改良を後押しすることが可能になると考えます。そして、エビデンスとともにベストプラクティスを積み上げることで、ロボット介護機器が介護現場において幅広く貢献し、産業形成されると考えられます。

図表2 ロボット介護機器事業が取り組むべきスコープ

出所:PwCコンサルティング合同会社「ロボット介護機器事業の成果・課題及び介護・福祉機器事業の展開に関する調査 報告書(令和2年度実施)」委託元:国立研究開発法人日本医療研究開発機構

 そもそも、なぜ経済産業省およびAMEDの取組みでは、介護ロボットではなく「ロボット介護機器」という概念で進められているのでしょうか?それは、ロボットがメインとなるのではなく、「あくまで介護機器がメインであり、介護機器がロボティクス化する」という想いが背景にあったからです。ロボット介護機器では、ロボットが万能にロボット単体で介護を行うという考えではなく、利用者がロボット介護機器を操作し、使いこなすことでより効果的な介護を可能とする機器であるとしています。そのため、利用者の目線も重要視しながら開発していく、という想いが込められています。事業開始当初の想いは、人による介護にロボットをうまく融合させることでより良いケアを実現させることであり、その想いは現在も変わらず引き継がれています。

過去の事業とその成果

 ロボット介護機器事業の歴史は10年弱ほどになります。平成25年度から経済産業省にて「ロボット介護機器開発・導入促進事業」が開始されました。その後平成27年度にAMEDが発足されたことに伴い、当該事業はAMEDに移管され、平成29年度まで実施されました。この経済産業省の事業では、「基準策定・評価事業」および「開発補助事業」に焦点が当てられました。
 その後、平成30年度から令和2年までは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)にて「ロボット介護機器開発・標準化事業」として継続してきました。AMEDの事業では、「効果測定・評価事業」、「基準策定・標準化事業」および「開発補助事業」を中心に取組んできました。

図表3 ロボット介護機器の開発・導入促進について

出所:日本医療研究開発機構「ロボット介護機器の開発・導入促進について」(https://www.amed.go.jp/content/000059153.pdf

 令和3年度から、「ロボット介護機器 開発等推進事業」が開始され、「開発補助」と「環境整備」の大きく2つで構成されています。その内訳は以下の通りです。

1.「ロボット介護機器 開発等推進事業(開発補助)」
   1-A. ロボット介護機器開発支援【開発補助】
2.「ロボット介護機器 開発等推進事業(開発補助)」
  2-A. 定量的な安全基準策定検討【安全基準ガイドライン策定】
  2-B. 海外展開等臨床評価ガイダンス策定等環境整備【海外展開等に向けた臨床評価ガイダンス等の策定】
  2-C. 作成した成果の普及【開発成果普及】

 令和3年度以降の事業では、これまでの事業の成果を活かし、これまでに解決できていない在宅等を含む介護現場の課題や新型コロナウイルス感染症の影響により変化した介護現場への対応を含めた開発を加速させるとともに、既存製品の事業拡大や海外展開を加速するための取組みとなります。

1-A.【開発補助】では、在宅介護のように高齢者本人が自立して生活することを支援する現場を含むことを対象とした「重点分野6分野13項目の対象機器・システムの開発」、および集団で実施する介護予防のような密になりやすい現場を対象とした「介護現場における感染症対策に資する機器・システムの開発」を支援します。
2-A.【安全基準ガイドライン策定】では、これまでの事業ではリスクアセスメントの方法や安全な機器を開発するための設計/試験基準を開発し取り纏めてきましたが、本事業ではより具体的な製品を例とした定量的基準の例示に取り組みます。
2-B.【海外展開等に向けた臨床評価ガイダンス等の策定】では、海外展開企業向けの臨床評価ガイダンスおよび国内展開企業向けの臨床評価ガイダンスの策定に取り組みます。
2-C.【開発成果普及】では、これまでのガイダンスやマニュアル類の活用促進、開発された機器の導入ベストプラクティスの創出、ロボット介護機器のコミュニティ形成などを介した開発・導入の普及促進に取り組みます。

 上記4つの取組がハーモナイズしながら、日本発のロボット介護機器を活用したより良い介護の姿を発信していくことが期待されています。

図表4 基準策定・評価事業成果一覧(27件)

「ロボット介護機器開発・導入促進事業」 研究開発プロジェクト(終了時評価) の概要 令和2年6月12日 製造産業局産業機械課ロボット政策室
 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/hyoka_wg/pdf/053_h06_00.pdf

 また、開発補助事業では、平成25年度から令和2年度までに112件が採択され、令和2年度末の時点でこのうち28件が実用化されました。

図表5  ロボット介護機器開発・標準化事業「開発補助事業」の概要

※派生品の1機種は採択年度不明
出所:PwCコンサルティング合同会社「ロボット介護機器事業の成果・課題及び介護・福祉機器事業の展開に関する調査 報告書(令和2年度実施)」委託元:国立研究開発法人日本医療研究開発機構

今後の取組み

 令和3年度から、「ロボット介護機器 開発等推進事業」が開始され、「開発補助」と「環境整備」の大きく2つで構成されています。その内訳は以下の通りです。

1.「ロボット介護機器 開発等推進事業(開発補助)」
   1-A. ロボット介護機器開発支援【開発補助】
2.「ロボット介護機器 開発等推進事業(開発補助)」
  2-A. 定量的な安全基準策定検討【安全基準ガイドライン策定】
  2-B. 海外展開等臨床評価ガイダンス策定等環境整備【海外展開等に向けた臨床評価ガイダンス等の策定】
  2-C. 作成した成果の普及【開発成果普及】

 令和3年度以降の事業では、これまでの事業の成果を活かし、これまでに解決できていない在宅等を含む介護現場の課題や新型コロナウイルス感染症の影響により変化した介護現場への対応を含めた開発を加速させるとともに、既存製品の事業拡大や海外展開を加速するための取組みとなります。

1-A.【開発補助】では、在宅介護のように高齢者本人が自立して生活することを支援する現場を含むことを対象とした「重点分野6分野13項目の対象機器・システムの開発」、および集団で実施する介護予防のような密になりやすい現場を対象とした「介護現場における感染症対策に資する機器・システムの開発」を支援します。
2-A.【安全基準ガイドライン策定】では、これまでの事業ではリスクアセスメントの方法や安全な機器を開発するための設計/試験基準を開発し取り纏めてきましたが、本事業ではより具体的な製品を例とした定量的基準の例示に取り組みます。
2-B.【海外展開等に向けた臨床評価ガイダンス等の策定】では、海外展開企業向けの臨床評価ガイダンスおよび国内展開企業向けの臨床評価ガイダンスの策定に取り組みます。
2-C.【開発成果普及】では、これまでのガイダンスやマニュアル類の活用促進、開発された機器の導入ベストプラクティスの創出、ロボット介護機器のコミュニティ形成などを介した開発・導入の普及促進に取り組みます。

 上記4つの取組がハーモナイズしながら、日本発のロボット介護機器を活用したより良い介護の姿を発信していくことが期待されています。

さいごに

 少子高齢化社会に向けて、介護に関する課題を解決していくことは、日本社会にとっても重要なカギとなります。ロボット介護機器は高齢者の自立支援、被介護者ご本人の尊厳維持、介護者やご家族の介護支援、介護現場の人手不足問題の解決などを実現することができます。そのためには、ひとりでも多くの方にロボット介護機器の存在、その正しいかつ有用な使い方を普及・啓発していくことで、より良い機器の改良が実現していくこととなります。また、今後はさらに在宅介護において支援ができるロボット介護機器の開発や、様々な機器とのシステム連携による、より良いケアの在り方なども検討・実現されていくことが期待されています。


[1] 初期事業ではステージゲート方式が採用されていたが、事業の途中から廃止されました。
[2] 「ロボット介護機器開発・導入促進事業」 研究開発プロジェクト(終了時評価) の概要 令和2年6月12日 製造産業局産業機械課ロボット政策室