Interview

ロボット介護機器の実証研究を紹介

超高齢化社会の今、介護分野の人材不足という課題に直面し、ロボット介護機器の需要は高まる一方、その本格的な普及はまだ十分でない現状があります。ロボット介護機器には様々な用途のものがありますが、高齢者や障害者の生活における移動の補助として使用される電動歩行器は、移動の自立度を高め、活動の範囲を広げるために大変有用であると言えます。電動歩行器などのロボット介護機器の開発・製造事業では、より安全で高機能な機器開発と介護現場への普及を目的として、機器の使用効果を検証するための実証研究が行われます。
今回、RT.ワークス株式会社 取締役 COO 鹿山裕介氏に、自社で開発した電動歩行器の実証研究について、その有効性や研究成果の公開、活用について語っていただきました。

① 製品開発段階における実証研究の活用

経済産業省「ロボット介護機器開発・導入促進事業」の助成を受け、複数の介護施設にて実証を行いました。愛知医科大学などの研究機関および介護施設の協力のもと、協力施設 54 施設、機器台数 98 台、実施期間 3ヶ月に渡る実証事業であり、電動歩行器としての有効性を従来のシルバーカーと比較して確認するものでした。
従来の介護機器においても効果の評価は行われてきましたが、アンケート等による主観的な評価が中心であり、特定環境下での意見を集めることはできても、さまざまな介護現場や使用環境で広く普及する機器として評価するには不十分でした。そこで、本実証では定量的な手法を取り入れた実証を行いました。「目標指向介護」による検証を前提に、被介護者、介護者それぞれの「一日の生活の目標」と「活動」が、機器の導入前後でどのように変化するかを定量的に測定し、科学的に検証しました。GPSによる位置情報で活動範囲を評価したり、歩行可視化アプリなどを使用して歩行時間や歩行状態などのデータを取得した結果、要介護1〜5の幅広い対象者において、電動歩行器を生活手段として利用することで生活の質向上が見込める結果となりました。また、利用シーンを観察する中で、外出先で座って休憩できることのニーズが明らかになり、RT.1の製品化において休憩用の椅子を追加する改良につながりました。
このように、現場実証を開発段階に行い、必要な機能を発見し付与したことで、販売前のニーズや使用を想定した設計の確認として活用することに繋がりました。

②製品導入段階における実証研究の活用

幅広い地域の多施設で、100 台規模の台数という大規模な実証を行ったことは、施設様に導入していただく、あるいは利用者様に使っていただくうえでの安心材料として有効だったと感じます。
この実証は、メーカーと、レンタル事業者などの仲介者、実証フィールドである介護施設が三位一体でチームを編成し行う事業形態でした。
締切までの時間がタイトな中での申し込みでしたので、3者集めてチームを組んでのエントリーには各社の調整が必要であり難しい面もありました。しかし、レンタル事業者などの流通事業者様と一緒にトライアルすることによって、製品自体や現場活用について流通事業者様に深く理解と興味を持っていただくことにも繋がりました。
このことは、市販後の商流構築を組み立てる際に非常に有効に働き、本実証を行ってよかった部分であると思っています。

③臨床的観点による実証研究の活用

日本医療研究開発機構「ロボット介護機器開発・標準化事業」において、大内病院¹に機器(RT.2)を提供することで、臨床的観点からの実証研究を行いました。
内容としては、体成分分析装置InbodyS10による測定(筋肉量が有意に増えたことを示した)、QOL スコアの測定(社会的な生活の質における有意な改善を示した)、FIM スコアの測定(退院後も日常生活自立度を高く維持できていたことを示した)、 mGESスコアの測定(日常の生活環境において歩行を安全に行うことができるという自信の程度が右上がりに改善したことを示した)といったように、電動歩行器使用による身体状態の改善データやそれに伴う心理的満足度スコアなど、これまでの実証では収集できていなかったデータを分析することができました。

実証研究の公開

実証研究の結果は、カタログやパンフレット、製品ホームページなどに掲載し紹介しています。
また、「③臨床的観点による実証研究」に参加いただいた山中先生(山中崇氏:東京大学大学院医学系研究科 特任准教授)と連携してケアマネージャー向けセミナーを開催し、対象者と効果に関する解説や、機器を使っていただくための留意点なども含めて説明、紹介し、電動歩行器の認知度向上を図るための活動も行っています。

実証研究の活用

実証研究によって得た客観的なデータをどう活用するかは段階によって異なり、開発初期の実証なら開発へのフィードバック、上市後ならプロモーションや製品改良に活用しています。
数値的なデータを取得できたことは製品開発・改良の参考になるだけでなく、対外的に機器の有用性をアピールするためにも活用しやすかったと言えます。

実証研究の有効性と意義

電動歩行器は、すべての歩行器を置き換えるものではありませんが、電動でない既存の機器が解決できていないニーズにアプローチできる手段になります。
ニーズに沿った商品を届け、電動歩行器の認知度を向上させるために、従来の歩行器と何が違うのか、何が良いのかを定性・定量の両面から訴求する上で、実証研究は有効だと考えます。

また、研究データを提示する際、相手によって伝え方を工夫することも、重要だと感じています。
例えば、セラピストに対しては定量的なデータが有用ですし、ケアマネージャーに対しては具体的な事例やエピソードなど定性的なデータを提示することで、 自身の担当者に対してどのような効果があるのかがイメージしやすくすると有効ではないかと考えています。

1) 医療法人社団大和会 大内病院

【参考】