Interview

ケアマネジャーの方から見たロボット介護機器の
導入・活用ポイントと効果

 高齢化率の上昇や生産年齢人口の減少といった背景を踏まえ、介護する側の負担軽減や、高齢者の自立支援を図るため、介護現場においてロボット介護機器が導入されてきています。今回は実際にロボット介護機器を積極的に導入している社会福祉法人友愛十字会砧ホームにおいて、ケアマネジャーとしてご活躍されている石原佳子さんにインタビューを実施しました。本インタビューでは、介護現場においてロボット介護機器を導入・活用するうえで心がけている点や、機器導入によって介護にどのような効果をもたらしたのかといった点など、介護の現場から見たロボット介護機器についてお話を伺いました。

【石原佳子さんプロフィール】
社会福祉法人友愛十字会砧ホーム ケアマネジャー
学生時代に管理栄養士資格を取得。卒業後シアトル系コーヒーチェーン運営企業に入社、副店長として勤務。結婚・出産を経て、回復期リハビリ病棟・療養型病院の管理栄養士に転職、高齢者医療・福祉分野でのキャリアをスタート。その後高齢者向け介護施設で栄養士として勤務する傍らで介護支援専門員(ケアマネジャー)資格を取得。2021年より社会福祉法人友愛十字会砧ホームで勤務、介護現場でのロボット介護機器の活用に積極的に取り組む。

※写真はご本人提供

ケアマネジャーとしてのロボット介護機器との関わり方

―― 砧ホームでの介護において、石原さんはケアマネジャーとしてロボット介護機器にどのように関わっておられるのでしょうか?

 2021年に砧ホームに来て今年で3年になります。入所した当時すでに砧ホームにはロボット介護機器が導入されていたので、自ら何かしら導入のために働きかけたわけではありません。現在の担当業務では、特にケアプランの中にロボット介護機器を取り入れる部分で関わっています。機器を利用するうえで、特にベッドセンサー、シルエットセンサー等の見守り系の機器については入所者のご家族に機器の使用に関する事前説明を行い同意を得る必要があるので、そういった業務を担当しています。また、介護機器は福祉用具の一つという考えの下、機能訓練指導員を中心に施設全体で活用に向けて取り組んでいます。

―― ロボット介護機器についての情報はどのように収集しているのでしょうか?

 テレビ番組での紹介を見たり、介護機器の展示会に足を運んで実物を見に行ったり、テクノエイド協会からの情報を確認したり、といった方法で情報を集めています。このあたりは他の施設の方々と同じではないかなと思います。フロアの職員から挙がっている困りごとについて、少しでも解決できる機器がないか、という観点で考えています。また、職員が働き続けられるような職場環境にしていくことも重要なので、利用者も職員も楽しみながら使えるもの、という点を大前提に考えています。

ロボット介護機器を長く使い続けるには

―― 多くの介護現場で、ロボット介護機器を導入しても途中で利用をやめてしまった、という話を聞きます。砧ホームでは、導入する際に気を付けていることはありますか?

 新たに機器を導入する際に、メーカーのトライアルサービス(試用期間)を利用するのですが、そのときに実際の現場でどのように使うかというプランをしっかりと想定することが重要だと思います。基本的に、この段階で機器を導入するかを判断するので、ここでどれだけ運用時のポイントや課題を洗い出せるかは大事です。トライアルの結果、マッチしていない機器は現場に導入しないようにしているので、砧ホームでは導入したものの途中で利用をやめてしまった、という事例が出ないようになっています。トライアルで起きたことが偶然なのか必ず発生することなのか判断したいので、トライアルの期間は長い方がありがたいですね。

―― トライアルをうまく使うことによって、導入した機器を活用できているのですね。導入したロボット介護機器を継続的に活用するためのポイントなどはありますか?

 ロボット介護機器を使いたい人がすぐ使える状態になっているという環境が重要だと思います。例えば、「マッスルスーツ」の場合、砧ホームでは全職員に利用を義務付けるのではなく、使いたい職員が使いたいときにすぐに取りに行けるよう、施設内で保管場所を決めて3箇所に分散して配置しています。

ロボット介護機器の現場への導入効果

―― 実際にロボット介護機器を導入して、どのような効果がありましたか?

 機器導入の推進により職員の身体的・精神的な負担が軽減することで、メリハリのある介護ができるようになりました。結果として介護の質が向上し、砧ホームとして総理大臣賞の表彰を頂くことにも繋がりました。
マッスルスーツ」の例では、実際に職員の腰痛が軽減しました。身体的な負担が減ることで、余裕を持った介護ができるようになっています。また、体を壊してしまって休職する職員が減ったので、職員数が不足しにくくなり、休暇が取りやすくなったというのも効果としては大きいですね。
 また、「眠りSCAN」(パラマウントベッド(株)製品)を全床に導入したことで、夜間に入所者の睡眠を妨げることなく安否確認や介助を行えるようになり、端の部屋から順にではなく優先順位をつけて安否確認をすることができるようになりました。導入前よりも数分空き時間ができるようになり、その空いた時間を別の業務に充てることができたり、一息つくことができたりしています。 コミュニケーションロボットについては、困惑される方とかわいがってくださる方と両方いらっしゃいますね。他の機器と違って、コミュニケーションロボットは利用者を笑顔にする、という意味では重要な役割を担っていると思います。

ロボット介護機器の積極的な活用のために

―― 職員の方々もロボット介護機器の利用に対して前向きな姿勢とお見受けしますが、このあたりはどのような背景があるのでしょうか?

 砧ホームでは2014年からノーリフティングケア(持ち上げない介護)を実践しています。こうした取り組みを、2015年に開催された高齢者福祉研究大会「アクティブ福祉in東京’15」において対外的に発信しました。こうした対外発信をするようになったことも、積極的な活用に繋がっているのではないかなと思います。

―― ロボット介護機器の情報について、ケアマネジャーの方同士で情報交換をするような機会はあるのでしょうか?

 そもそも、ケアマネジャーの意見交流という場自体がほとんどありません。ロボット介護機器に関してというところに絞ると、さらに少ないのではないかと思います。ケアマネジャーは外部のサービスをケアプランに盛り込むので、通所型などの業態ではトレーニングマシンはあっても、介護機器を取り入れている事業所は少ないのではないかと思います。また、入居型の介護施設についても、ほかの施設ではまだ導入が進んでいないところもあると伺っています。

―― 現場にいらっしゃる石原さんから見ても、ロボット介護機器の普及はまだ十分ではないという印象なのですね。一方で、介護現場の課題解決や介護の質向上などの視点から、ロボット介護機器に関心のあるケアマネジャーの方々も多いのではないかと思いますが、ケアマネジャーの方々へメッセージをいただけないでしょうか。

 私は介護職員をサポートする立場にいますが、そこから見ていて、サポートツールとしてのロボット介護機器というものがどんどん進化して世に出てきています。情報を交流する場が少なく、情報交換の機会はなかなかありませんが、まずは小さいもので施設に導入できそうな機器から活用してもらうのが良いのではないかと思っています。


<おわり>